クラフトビールは、なぜこの値段なのか
2026.11.04 / 約6分で読めます 文・監修:矢切ブルワリー同じクラフトビールでも、ホップを大量に使うIPAと、シンプルなラガーでは、原料にかかるお金が違う
熟成の時間も、コストになる。タンクが空かない間は、次のビールを造れない
2026年は、炭酸ガスの約2倍の値上げと、原料の上昇が重なった。酒税は、値段の約4〜5%で、主な理由ではない
「クラフトビールは、高い」。そう言われることがあります。それは、そのとおりだと思います。大手の缶ビールに比べれば、1杯の値段は、ずいぶん違います。
ただ、その違いが「何でできているのか」は、あまり知られていません。この記事では、造り手の側から、値段のうちわけを説明します。「高いけれど、しかたがない」と言いたいのではありません。1杯の値段が、何でできているかを、知ってもらうためです。
1. 小さな仕込みは、1リットルあたりの手間が大きい
当店の1回の仕込みは、約200リットルです。レギュラー(240ml)に直すと、およそ830杯分。大きな工場なら、1回の仕込みで、この何十倍、何百倍が造れます。
仕込みの手間は、量が少なくても、大きくは変わりません。麦汁を作り、煮沸し、発酵させ、タンクや配管を洗い、樽や瓶に詰める。工程の数は同じで、できあがる量が少ないのです。しかも、仕込んだ全部が売れるわけではなく、発酵中の目減りや、樽の底に残る分があります。
2. 原料:ホップを、たくさん使うビールほど、高くなる
ビールの原料のうち、値段を大きく左右するのが、ホップです。
IPAのようなホップの強いビールは、香りを出すために、発酵のあとにもホップを加える「ドライホップ」をします(IPAの歴史は、IPAの成り立ちで書きました)。ドライホップの量は、研究では、1リットルあたり4〜8グラムの範囲が、香りのバランスの目安として挙げられています〔1〕。1リットルあたりで見ると小さな数字ですが、仕込みの量をかけると、ホップは大量になります。
一方、ピルスナーのようなシンプルなラガーは、ホップの使い方が違います。当店のラガー「Himmel」は、ホップはHallertauer HersbruckerとNorthern Brewerの2種類で、酵母は液体酵母のImperial L17 Harvestです〔2〕。液体酵母は、乾燥酵母より割高ですが、ラガーの味を整えるために選んでいます。それでも、ホップの量が大きく違うので、原料費の合計は、IPAのほうが大きくなります。
3. 時間:タンクが空かない間は、次を造れない
発酵と熟成の時間も、コストです。
ラガーは、発酵のあと、0℃近くで、少なくとも2〜3週間は寝かせるのが目安とされます(くわしくはエールとラガーの違いで)。この間、そのタンクは、次のビールに使えません。
当店のMerckxは、さらに長く、2年間熟成させました。2年のあいだ、その場所と時間を、使い続けたことになります。熟成には、味がまとまる良さがありますが、その時間を、ほかのビールを造るために使えなかった、という見方もできます。
4. 2026年は、コストが重なった年
2026年は、造り手にとって、コストの上がった年でした。
炭酸ガス
樽生ビールを注ぐのに使う、炭酸ガスのボンベが、2026年10月1日から、大手4社で、ほぼ2倍に値上げされました〔3〕〔4〕。供給側の製造・物流コスト、ボンベの部品や耐圧検査の費用が上がっていることが、理由とされています〔3〕。報道では、生ビール1杯あたり約4円の負担増になる、とされています〔5〕。当店でも、10月から、炭酸ガスの仕入れが、約2倍になりました。
原料
ホップ、酵母、麦芽の仕入れも、当店では、1〜2割ほど上がっています。海外の調査では、アメリカのクラフトブルワリーの原料費が、2018年から2023年にかけて、1バレルあたり約138ドルから約164ドルへ、約2割上がっています〔6〕。日本でも、同じ流れの中にいると感じています。
酒税は?
2026年10月の酒税の統一で、「安くなるのでは」と思った方もいるかもしれません。実は、クラフトビールの1杯にかかる酒税は、値段の約4〜5%です。数円の増減では、値段はほとんど動きません(くわしくは、酒税が統一されても、クラフトビールは安くならない?で)。
5. 当店の値段の考え方
当店は、ビールの値段を、段階で決めています(2026年11月時点)。
- バドワイザー:レギュラー 700円
- ラガー、イングリッシュビターなど、ホップの量が控えめなもの:800円〜
- IPA、フルーティーなもの、個性の強いもの:900円〜
- 熟成のかかったもの、特別なもの:別枠
この段階は、「原料にかかったお金」と「時間」を、そのまま写したものです。ホップをたくさん使ったIPAは、そうでないラガーより、高くなります。熟成に長い時間をかけたものも、同じです。
まとめ
- クラフトビールの値段は、小さな仕込み、原料(特にホップ)、熟成の時間、そして2026年のコスト上昇の足し算でできている。
- 同じクラフトビールでも、IPAとラガーでは、原料にかかるお金が違うので、値段も違う。
- 酒税は、値段の約4〜5%。2026年に値段に影響しているのは、主に炭酸ガスと原料の上昇。
1杯の値段の裏にあることを、知ってもらえたら、うれしいです。
参考文献(6件・押すと開きます)
- Brulosophy, Investigating The Dry Hop Saturation Point, 2019(オレゴン州立大学のShellhammer氏の研究などを引用). https://brulosophy.com/2019/06/24/investigating-the-dry-hop-saturation-point-exbeeriment-results/
- 矢切ブルワリー, Himmel(PRODUCT). /beer/himmel/
- キリンビール, 飲食店向け樽生ビール用炭酸ガスボンベの値上げ(食品新聞, 2026年8月5日). https://shokuhin.net/154669/2026/08/05/inryou/sake/
- coki, 炭酸ボンベは値上げ、缶ビールは値下げ 2026年10月に起きる生ビール原価の逆転. https://coki.jp/article/column/91978/
- ライブドアニュース, ビールは安くできない? “ミドボン”価格倍増 減税の裏で炭酸ガス値上げ…困惑する居酒屋(2026年10月9日掲載). https://news.livedoor.com/topics/detail/32528151/
- Brewbound, Brewers Association Financial Benchmarking Survey: 2023 Revenue Up vs. 2018, Labor Costs +50%. https://www.brewbound.com/?p=168886